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里枝子のエッセイ

盲導犬と一緒に子どもたちに伝えてきたこと

「第16回オンキョウ世界点字作文コンクール」 国内成人の部「優秀賞」受賞

 今月も、小学校の全校講演会にお話に行った。私が、盲導犬のアイメイトと一緒に、校長先生の後に着いて体育館に入って行くと、子どもたちから、わあっ!と声が上がり、大きな拍手で迎えてもらった。もちろん1番人気は、アイメイトだ。ベージュ色で小柄なラブラドールレトリバーのアイメイトは、しっぽをブンブン振りながら、元気いっぱい私を誘導する。私も、思わず笑顔になってステージに向かった。膨らんだショルダーバックを肩にかけ、大きな荷物を背負って、さあ、今日も子どもたちは喜んでくれるかしらと、サンタクロースになった気分だ。
 私は、SBC信越放送のラジオ番組「里枝子の窓」を担当してから、学校などに講演に呼んでいただくようになった。27年間、4頭の盲導犬と一緒に長野県の各地で講演活動を続けてきた。その講演活動の中でも、とびきり楽しいのは、小学校での講演だ。
講演の始めには「私は目が見えないので、私が問いかけたときには声に出して答えてください」と皆さんにお願いしている。すると、子どもたちは、思ったことをどんどん声に出してくれるので、生き生きしたやりとりになる。
 小学校での講演テーマは、「見えないってどんなこと?」にしている。その中で、盲導犬のことは、ぜひ理解してほしいと願って必ず話してきた。子どもたちは、盲導犬の働きぶりを熱心に見ているらしい。私の足元に静かに伏せていた盲導犬が寝返りを打ったら、1年生が、一緒になってころんと寝返りを打つといった愉快なこともしばしばおきる。
それから私は、見えないとは、どんなことか。どのように暮らしているかを話す。私自身が、失明してから失敗したこと、工夫したこと、困ったこと、うれしかったことなどをできるだけわかりやすく伝えて、子どもたちの質問にも答えている。子どもたちの質問は、どれも率直でおもしろい。子どもたちがよく尋ねてくれる「今までで一番うれしかったことはなんですか?」という質問には、「おかあさんになれたことです」と笑顔で答えている。
 小学校の講演では、よくクイズも出す。「目の見えないおかあさんは、子どもに絵本を読んであげられない?」などと問題を出すと、子どもたちは「ノー!」と声をそろえて答えてくれる。そこで私はショルダーバッグから、点訳ボランティアの皆さんが、点字を付けてくださった点訳絵本を取り出して読んで聞かせる。「ほらね、こういう点訳絵本をたくさん作っていただいたおかげで、私は息子達を抱っこして絵本を読んであげられたの」と話すと、子どもたちは「すげえ!」などと感心してくれる。そんなふうにして、私は、白杖や、点字のついたトランプ、音の出るボールなどを次々取り出して子どもたちに見せながら、目が不自由な私たちを助けるさまざまな道具があることや、それらを使って工夫しながら暮らしていること、目の見える人と見えない人は、助け合って仲良く暮らせることなどを伝えている。
 そして講演の最後は、いよいよ背負ってきた大荷物を開けて見せる番だ。楽器ケースを開いて三味線と撥を取り出す。そして、三味線を弾きながら、体育館に響き渡る声でおめでたい調子のいい越後瞽女唄を唄うと、子どもたちから驚きの声が上がり、やがて歓声になり、小さな子どもたちは、今にも踊り出しそうだ。盲目の先輩たちから受け継いだ大切な瞽女唄を子どもたちに楽しんでもらえることは、本当にうれしい。
 私自身は、7才で、将来は目が見えなくなるかもしれないと知らされていたにもかかわらず、目の不自由な人に出会うことがなく、大きな不安を抱えながら成長した少女だった。しかし、これからの子どもたちには、決して同じ思いをさせたくない。子どもたちには、障害を恐れることなく、明るく助け合って生きていってほしいと心から願っている。そのためにも講演では、今私が感じている生きる喜びを聴き手の子どもたちや大人の方々と分かち合いたいと思う。
 最後に、私が、千回を超える講演で伝え続けてきた自作の詩を記して、私の変わらない願いを伝えたい。

「願い」

どうか、自分をあきらめないでください
悲しくて泣きたいときも
くやしくて眠れない夜も
どうか、自分をあきらめないでください
あきらめるのは自分への差別だから

どうか、自分と違う生き方をしている人と
深くたくさん出会ってください
障害のある人も、ない人も
日本人も外国人も
被差別部落に生き抜く人も
違いを超えた友情が
未来を開く鍵だから

どうか、考えてください
障害があるだけで
一緒に学べない
一緒に働けない
危険で歩けない
壁だらけの街

どうしたら、より良くつくりかえてゆけるか
どうか、一緒に考えてください

病気も
老いも
障害も
特別の人のものではありません
普通の人生に
普通におきることなのです