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里枝子のエッセイ

ジャスミン、明日に向かって歩こう(2)

(「信州発産直泥つきマガジン たぁくらたぁ39号」掲載)

見えないみんなで健康づくりのトレーニング

横たわる盲導犬のイラスト

 初めてウオーキングマシーンに乗った全盲のMちゃんが「わあ、こんなの初めて!体が後ろにいっちゃう!」と驚いて歓声をあげた。健康運動指導士さんは、Mちゃんの背中に手を添えてくださったようだ。「大丈夫、大丈夫。そのまま歩き続けてください。とってもいい姿勢で歩けていますよ」と励ましている。近くでは、全盲のママのYさんが、一生懸命にエアロバイクをこいでいた。「ああ、とっても楽しいです!私、どのくらいカロリーを消費したかしら?」と尋ねると、別の健康運動指導士さんが、エアロバイクの液晶画面を覗きこんで「バナナ1本分になりましたよ。がんばっていますね」と応えてくださった。その隣でエアロバイクをこいでいた弱視のCさんも「本当に気持ちいい!私、いつも歩くのって通勤だけだから、汗をかくのは久しぶりです。これからここに通ってトレーニングしようかな。里枝子さん、いいところを教えてくれて、ありがとう」と、息を切らしながら明るい声で言った。私も「うん、一緒にやろうよ!」と、思わず声を弾ませた。そんな14名の歓声が響くトレーニングルームの隅では、私の盲導犬のジャスミンが、いつものようにゆったりと寝そべって待っていた。
 これは、今年の4月に、「東御視覚障がいネットワークゆるり」が、同じ長野県東御市内にある「ケアポートみまき 温泉アクティブセンター」と「身体教育医学研究所」の協力を得て開いた健康づくりのトレーニングの体験会のようすだ。私は3月から週に1回ずつ、この「温泉アクティブセンター」にジャスミンと通って汗を流している。ここなら職員の皆さんが協力してくださるので、見えない私達も安心してトレーニングができると仲間達に話すと、さっそくみんなで行ってみようということになった。見えない私たちは、一人で歩くことが難しいので、極端な運動不足になりがちだ。運動機器を使ったトレーニングなどは、なかなか経験するチャンスがない。それだけに、この体験会は、みんなにとって非常に新鮮な体験になったようだ。
 体験会の要になってくださった「身体教育医学研究所」の岡田佳澄さんにお礼のメールを送ると「本当に楽しそうでしたね!今後も皆さんの『やりたい!』気持ちに寄り添いながら施設内でも連携を図り、対応していきたいと考えております」とお返事をくださった。私の1歩が、障害のある仲間達の1歩につながり、更に支援の輪が広がって、身近にみんなが安心して行ける場所ができたことが、とてもうれしい。
 実は、私は、この「温泉アクティブセンター」に出会う前にトレーニング設備を備えた2つの施設で、受け入れを渋られてしまい、そのときはどうなることかと思った。受付で「盲導犬を入れていいかは、上に確認しないと判断できません」と繰り返し言われて見学もできなかったり、「こちらでは介助はできないので付き添いの方に来てほしい」と言われたりした。
 それで困って、ユニバーサルスポーツの普及に力を入れている「身体教育医学研究所」に相談したところ、連携している「温泉アクティブセンター」の人達とすぐに話し合ってくださったとのこと。翌日に私が行ったときには、体格のいい男性達が、6人もそろって私を迎えてくださった。その方達は、各部署の専門家で、皆で私の希望を尋ねながら、どうしたら目の見えない私が1人で盲導犬と来た場合にも安心してトレーニングができるかを一緒に考えてくださった。
 そのおかげで私は、福祉有償運送で送迎してもらえることになり、交通の不便なこの地域では、とても助かっている。視覚障碍者のガイド方法や、盲導犬への接し方についても、関係者みんなに資料を配って勉強してくださったので安心だ。職員の人達は、他の利用者の人達にも「盲導犬には温かな無視をお願いします」と伝えてくださっている。そのため、利用者も、ジャスミンにさわらないように注意しながら、そっと眺めて和んでおられるようだ。 私は、ここでトレーニングを続けて、今年の12月には、ハワイのホノルルマラソンに挑戦するつもりだ。どんなに時間がかかっても、伴走者と一緒に完走することを目標にしている。「たぁくらたぁ 冬号」で報告できるように元気にがんばりたい。

颯爽と歩く盲導犬とユーザーのイラスト