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里枝子のエッセイ

越後瞽女唄探求の旅 三の段 − 唄って歌って瞽女唄の旅

2019年1月10日

■はじめに

 越後瞽女唄の旅の第3段は、自作の短歌でご報告させていただくことにした。瞽女唄を人々と分かちあう喜びは、短歌に詠むことで、余韻が響き続けるように感じる。
 短歌は、2017年の秋から、全盲の歌人、上原博司さんにお導きいただいて日々の楽しみになった。まだ拙い歌日記だが、そのときの音や情景を思い浮かべながらお読みいただければ、ありがたく思う。

[2018年]

○1月21日
「游話舎サロン」にて岩崎信子さんとの対談と瞽女唄演奏
縞柄の紬の着物着せくれて友は襟元整えくるる
和服にて岩崎さんに手をひかれホールに出れば歓声挙がる
瞽女歌の前唄なりし「門付唄」心鎮めて撥振り下ろす
瞽女歌に「葛の葉子別れ一の段」われは唄いぬ三味(しゃみ)を弾きつつ

○2月14日
「おいまつえん」で朝子さん母娘と紫苑コンサートに向けて写真撮影をする
冬晴れの老舗旅館の濡れ縁に和服姿で三味線を弾く
写り映えよくせんとして友は襟袖整えて光を当てる
川風に向かいて唄うとき喉の震えるまでもカメラは捕う
友は言う凛として唄う姿から瞽女の気概の伝わりくると
寒中の撮影なれば冷えし身に温かかりき宿の馳走は

○2月23日
ガイドヘルパーさんと「世田谷梅祭り」に行く/萱森直子先生の瞽女唄公演を聞く
公園は五百本の梅の紅白の花と流るる香りに満ちて
梅の名は「鴇の舞い」とう眼裏(まなうら)に薄紅色の花浮かびくる
白梅の古木に触れて瞽女歌の「梅の口説き」を口の端(は)にする
師の唄う瞽女唄「石童丸」を聴く身を乗り出して耳傾けて ○3月10日
皆野町ライブの打ち合わせに40年ぶりに故郷へ行く
幾度も夢に訪ねしふるさとの土足裏に踏みしめて行く
温かき友の計らいわれは受け密かなる夢叶いし帰郷
50年前住まいしわが家訪ねればほのかに梅の香り流れて
盲導犬二頭並びて堂々と歩む故郷の風の清しき
ふるさとに槿(むくげ)咲く頃帰り来てわれは唄わん越後瞽女唄

○3月18日
心の姉妹のホームコンサート
掃き清め桜活けたる玄関に迎えてくるる盲(めしい)の姉は
三姉妹心合わせて音合わせピアノ・三線奏でて歌う
手を取り合い別れてからも口ずさむ皆で歌った「えんどうの花」

○3月28日
「JA信州うえだ 女性部」総会にて記念講演と瞽女唄演奏
「ラヴェリテ」に農業婦人集い来て頷きながらわが講義聴く
農婦人らはステージに盲人を助ける劇のいく幕演ず

○4月22日
「新張区三世代お花見会」にて瞽女唄演奏
瞽女唄をお年寄りにと出かけるも子どもが多く集まりいたり
演目を子どもに合わせ入れ替えて楽屋にて弾く本番の前
おめでたい瞽女唄四曲調子よく明るく唄い無事演じ切る
戦後にもこの集落に瞽女さんが唄いに来たと古老は語る
二十歳頃聞きし瞽女唄懐かしく口ずさみしと古老喜ぶ
三味線を背にお土産のおにぎりを下げて帰りぬ足取り軽く

○4月25日
刈萱山西光寺を訪問したおりに1曲奉納させていただく
瞽女唄の石童丸にゆかりある西光寺を訪う友と連れ立ち
西光寺に堂守る婦人一人いて石童丸の絵を説きくるる
絵を指しつつ流れるように語りゆく刈萱上人(かるかやしょうにん)父子の生涯
西光寺の本尊様の前に座しわれ「お茶和讃」の唄を奉ずる

○5月18日
新潟市に瞽女唄のお稽古に行く
今にして師匠と母に感謝する稽古厭わぬわれに育ちて
ひたすらに師匠は語る弟子のこと瞽女唄のこと将来思い

○6月8日
沖縄演奏旅行のために浴衣と帯を買う
波模様白地に涼し絽の浴衣羽織れば皆言う「これが似合う」と
鮮やかなミーサー織りの帯選ぶウチナーンチュへの敬意をこめて
白に青ミーサー織りの帯を買いさあ沖縄へ演奏旅行
沖縄の演奏旅行に締めゆけばミーサー織りの帯里帰り

○6月9日(土曜日)
「上小賛助会」(退職教師の会)にて講義と瞽女唄演奏
長年にわたる講演支え(ささえ)くれし先生方にお礼を述べる
講演を終えて瞽女唄皆さんに聞いていただくお礼の意もて
万感の思いをこめて瞽女唄を唄えば拍手割れんばかりに

○6月20日
「禰津西宮区生き生きサロン」にて演奏 2回目
わが地区の公民館へ浴衣着て三味線を背に演奏に行く
役員は無理なるわれも瞽女唄で奉仕できるは何よりうれし
去年(こぞ)よりも人減りたれど心より瞽女唄聞きたき人集いおり
高齢の方々なれど聴きくるる耳傾けてわが瞽女唄を
われ歌う「葛の葉 子別れ 一の段」涙で聞いてくるる人あり
「白狐なり」と唄えば正体明かしたる思いに心晴れ晴れとする
拍手また上がる歓声村人がわれを受け入れくれしを思う
亡き義父の友なる人がお礼にとハモニカ演奏聞かせくださる

○6月24日(日曜日)
「高江座り込み11周年集会」で越後瞽女唄演奏
瞽女唄をもて人々に連帯の意志伝えんと高江へ向かう
美しき海黒々と埋め尽くし米艦寄せ来しかの沖縄戦
沖縄へわれを連れ来し友のあり待つ人々のあり東村
連帯の意識深めて闘える三百人が集う大会
集会のオープニングを瞽女唄で飾らんとわれステージに上る
11年座り込みなす人々を前に唄うは瞽女祝い唄
瞽女唄はすべて庶民の唄なれば反戦歌なりと師匠は言えり
瞽女唄の「正月祝い口説き」をば声をかぎりに高江集会
瞽女唄をもて全国を行脚せん夢のスタート高江集会

○7月7日
「信州国際音楽村 邦楽友の会」に参加
瞽女唄を聞いてほしいとの一念で今年も参加する「友の会」
余念なく音合わせする演者らの内に座りて耳澄ましおり
演者らと楽器で込み合う楽屋内ヘルパーさんはわれを導く
楽屋にて聞く熟練の合奏に撥持つ指のかすかに震え
木のホールに響くわが声耳にして震えが止まり動き出す指
「打楽器と思って深く打ちこめ」とう師匠の言葉蘇りくる
プロの演奏「眞美夜」(まびや)の曲に魅せられて拍手と歓声ホールに響く
会場を出でんとすれば「来年も来てね」と言われ笑顔を返す

○8月15日
夏稽古 雷鳴に負けじとわれが声を張り三味線弾けば夕立は去る
夏稽古噴き出す汗に三味線の皮裂けぬよう居ずまい正す
「お茶和讃」は瞽女の発ち唄御仏を浄土へ帰す唄とぞ思う

○8月19日
フィンドホーンの旅 早朝の入り江と、クレーグさんの畑で唄う
明け初めし海に向かいて声上げる海鳥の群れの啼くに合わせて
海鳥も入り江に寄せる潮騒もわれらも歌う北海の朝
朝日浴び生きとし生きるものすべて声を上げおりわれらもそこに
畑のために唄ってくれと頼まれて畔にて唄う瞽女祝い唄

○8月20日
フィンドホーンの旅 夜のシェアリングで唄う
火を囲み祈り捧げる集いにてわれは捧げる魂の唄
「瞽女唄をみんなと分かち合うこと」がわが夢となる北の地に来て

○8月22日
フィンドホーンの旅 ラブ イン アクションの中で唄う
瞽女唄の「金のなる木」を唄いつつベンチの苔をやすりで落とす
「金のなる木」は労働歌なればわれそを口の端にベンチを磨く
畑のために唄ってと頼まれて畔にて唄う瞽女祝い唄
誰とでも歌い楽しく働ける日々の暮らしに不足はあらず

○8月23日
フィンドホーンの旅 豊作を願って農園で唄う
レタスの苗植うる仲間の傍らで「正月祝い口説き」を唄う
カランガーデンに響けと唄う瞽女の唄豊年満作願いながらに
わが唄を聞きて喜び「この秋はでっかい南瓜が取れるぞ」と声上げる人

○9月20日
「こうのす・紫苑コンサート」の着物を整えて送る
恩師より賜いし衣装しつけ糸外して初舞台への支度にかかる
桃色の重ね襟なせば紫の絹の衣装はさらに華やぐ

○10月6日
「こうのす・紫苑コンサート」の打ち合わせとリハーサル
初舞台成功させんと駆けつける「チーム里枝子」の熱き友情
半年の準備の上にコンサート 友らの手にて仕上げにかかる

○10月7日
「広沢里枝子の越後瞽女唄コンサートINこうのす・紫苑」開催
妹の司会の声に耳澄ませ呼吸整え袖に出を待つ
信濃より駆けつけくれし恩師より祝辞賜る今日の幸せ
思い出ず恩師と聞きしハルさんの唄と胎内川の瀬音を
大師匠小林ハルの瞽女唄に打たれて泣きしは16年前
秘めおきし滅紫(けしむらさき)の絹衣(きぬごろも)着てぞ「紫苑」の初舞台踏む
胸高(むなだか)にきりりと袋帯締めて髪に簪(かんざし)われは舞台へ
門付け唄を唄いながらに瞽女の旅ここに始まると思うたまゆら
われ一人関東平野に立ち向かい喉も裂けよと唄う瞽女唄
子を捨てる葛の葉姫の身になりて嘆きを唄う滝の汗して
東から西から来たる師や友の祝福受けてわが初舞台
女童(めわらべ)の頃より見守りくれし人集いてくるる今日の嬉しき
友情の溢るるスタンドフラワーを背に旅立ちの記念の写真
鴻巣の稲穂のうねりさながらに世界に広がれ瞽女唄の波

○10月14日
長野県退職女性校長会「長野梅の実会」にてお話と演奏
講演と演奏をなす退職女性校長会の記念の会に
再会を喜ぶわれは講演に招きてくれし先生方と
温かき拍手を受ける男の子二人育てし話をすれば
講演を終えて和服に早変わり三味線抱きてわれは舞台へ
残り時間少なくなれば物語の見せ場よりわれは唄い始める
「鬼の目に涙」と言いて泣きながら思いを語る先生もおり
職引きし今も教師の心根を忘れずわれの世話なしくるる

○11月10日
「王子平区生き生きサロン」にて演奏 2回目
約束の「八百屋お七」を初披露赤い衣装で娘心で
リクエストの「田中小唄」を覚え来て拍子木打ちてみんなで唄う
長老は「演舞場にでも行ったよな唄を聴いた」とわれに喜ぶ
来年は「越後小唄」を唄ってと宿題もらう「生き生きサロン」
平成の最後の集い楽しみて労い合いつつ帰る人々

○11月12日
長男の次女、公美が誕生
山川を越えて届けよ離れ住む息子へ唄う瞽女祝い唄
祝い唄四竹(よつだけ)打ちて唄いおれば孫の生まるる予感が走る
落ち着いた声にて息子は父らしく二女の誕生われに告げくる
母子ともに健やかと聞き安堵する思わず胸に両手合わせて
羽あらば飛びゆくものを山越えて生(あ)れしばかりの女孫(めまご)に逢いに

○12月12日
クラブツーリズムの旅「忠臣蔵をあるく」に参加
本懐を遂げたる義士の足跡を江戸の町行く心地に辿る
泉岳寺に重なり合うがに葬られし四十七士に香を手向ける
赤垣の「赤」なる文字を墓石に指もてたどり両手合わせる
赤垣の墓にぬかづき君の唄唄わせ給へと許しを乞うる

○12月14日
今年最後のお稽古に新潟へ行く
「新潟は雪でしょうね」と空仰ぎ見送りくれる上田の駅員
新潟に向かう車体に揺れながら唄の文句を稽古して行く
轟音に呟き消えるを幸いに唄の稽古に余念なく行く
新幹線で4時間の旅瞽女たちの歩いた苦楽を思いつつ行く
瞽女唄を学ぶ仲間の初祭りブローダーハウスのコンサート
来年のコンサートに向け稽古する力まず語りかけるようにと
来年はそろいの法被に身を包み師匠と弟子の瞽女唄祭り

○12月16日
芹沢綾子さんの「冬のお話し会」に参加
古民家に槇ストーブの火は燃えて静かな語りに耳を澄ませる
「良い歳を迎えましょう」と手拍子に合わせて唄う年越しの唄