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インタビュー「私と仕事」

第10回 『女性のための治療院 オアシス』を営む北沢とも江さん 2008・2

イラスト
©Masako Ikeda

今回は、岡谷市で『女性のための治療院オアシス』を営む友人、北沢とも江さんに、東御市に来ていただき、ペンションの一室で、じっくりとお話を伺いました。

北沢とも江さんは、1951年、諏訪市生まれ。普通校で教育を受けましたが、進行性の網膜の病気のために、子どもの頃から弱視でした。高校卒業後は京都の大学へ進学し、21才で結婚。22才で長女を出産した後、家族で岡谷市に引っ越してきました。

結婚後は専業主婦でしたが、40代になってから急速に視力が低下し、48才のときに松本盲学校の専攻科理療科へ入学。「鍼灸・按摩マッサージ・指圧師」の国家資格を取得して、2001年に『女性のための治療院 オアシス』を自宅で開業しました。

「女性専門の治療院は、女性の恐怖心や、不安を最初から取り除いた場所として成り立っているのです」と語る、とも江さん。私は同じ盲女性として、深く共感しながら、とも江さんの思いと実践に、耳を傾けました。

とも江
いよいよ自分は失明に向かっていくんだなあと思い知らされたのは、40過ぎてからなんです。このまま、どんどん落ちていくような気がしていたときでした。だけど、このままで終わりたくないという気持ちもどこかにあって。見えなくても何かできることがあるんじゃないか、本当に自分が願っているのは何だろうと考えた時期が何年かありました。
里枝子
「とも江さんと私が出会ったのも、そんな時期でしたね。」
とも江
「そうでしたね。それまでは見えなくなった後の不安について口にできなかったのだけど。里枝子さんに会ったときは、本当に荒野の中を彷徨った末に、自分と同じ言語を話せる人に初めて行き会えた、そういう嬉しさでした。」
里枝子
「私も、通じ合える方がここに居てくださった!そんな喜びでした。それに、とも江さんは、それから間もなく『盲学校を受けることにした。ついては通学のために盲導犬の訓練を受ける』と連絡をくださったでしょ。突然ズバッと立ち上がって決断されたので、本当にびっくりしました。」
とも江
「たぶん心の中には、マグマみたいにぐつぐつしているものがあったと思います。それが、まずは盲学校に向かったのかなあ。ただ、実を言うと、私は若いときは、この仕事には絶対に就きたくないと拒絶していたんです。」
里枝子
「それはどうしてですか?」
とも江
「女性がする仕事として、気になる部分は、不特定多数の人の体に触らなければいけない点、特に一番怖かったのはセクハラみたいなこと。見えないことが弱みになって、いつも危険を感じるんじゃないかと。」
里枝子
「確かに盲女性が個室で異性の体に触れながら仕事をする場合には、危険と背中合わせの面がありますね。でも、そんな不安を感じていた、とも江さんが、48才で、理療を学ぶことにしたのはなぜですか?」
とも江
「自分が更年期症状に苦しんでいたとき、私の娘が私の体のあちこちをさすってくれたの。そのときの、なんとも言えない気持ちよさ。こんなに人の手の温もりを感じられる仕事が、目の見えなくなった人のためにあったのに、どうして私は今まで、その視点でこの職業を考えてみなかったのだろうと思ったの。だから、まずは自分がやれるかどうかじゃなくて、理療がどういうものかを知りたくて、盲学校に行きたかったんです。中年になってから学校に行って、よかったと思っているのですよ。」
里枝子
「どういう点で、よかったですか?」
とも江
江「普通の主婦の視点から理療の世界を見たことは、ちょっと得になったかなと思っています。学校に行っている3年間は、理療を行う側から一般の人を患者として見ているけれど。一般の人達は、また違う視点で、こちらを見ている、その間のずれがわかるの。たとえば、東洋医学というのは、一般の人から見て、敷居が高いというか、わかりにくい。どんな人がどんなことをしているのかが、電話帳からは伝わってこないので女性は心配になる。どこへ行ってよいのか迷ってしまいます。そこで私が温めていたのは、この仕事を、東洋医学の視点で考えるだけではなくて、健康をサポートするサービス業という視点で考えれば、もっともっと色々な開拓ができるのではということでした。」
里枝子
「そこで戦略を考えたわけですね。とも江さんが、国家試験に合格した後、女性専門として治療院を開いた理由を教えてください。」
とも江
「施療する私の立場と、来られる方の立場。両方にとって、女性専門の治療院が必要だと思いました。施療する女性も、施療を受ける女性もその現場で受けた、あるいは受けるであろう心配をしなくても良い方法はないのだろうかと考えたとき、こんなに簡単な解決策があるのに、理療の世界では、それがタブーとされていたことに疑問を感じました。だけど、私はいわゆる「改革者」というほどのものではないので、柔らかくささやかに問いかけをしたかったの。日本中に女性のための治療院がたくさん出来て、不安をかかえた女性たちがみんなで、笑顔で働いたり、体や心の疲れを解消して、元気になって欲しいなと思っています。」
里枝子
「さて、とも江さんが、女性の仲間を癒すためにつくった治療院。様々な心遣いや工夫をしていると思いますが、そのあたりも聞かせてもらえますか?」
とも江
「まず、時間をかけて、全身をマッサージすることですね。ひとりに、1時間半から、2時間くらい施療時間がかかります。女性の場合、体が痛みに対して我慢強く出来ているためか、肩こりにしても、よくここまで我慢出来たものとあきれるほどの状態で来院して来ます。 息が深く吸えないとか、あごが張って首が回らない、一体どんな病気になったのかと心配してみえる方が多くて。でもそれが、実はこり過ぎていて、全身のこりをくまなくとるうちに良くなるという人が、けっこういます。それと、女性は家では、時間があっても休めないんですよ。だから、私の所に来て、1時間半から、2時間近く治療代の上に居て、マッサージを受けながら、時には安心して眠ってしまいます。そうして体がほぐれたことによって、気持ちが軽くなると言われる人もあります」
里枝子
「一人に1時間半から2時間もかけて、全身をほぐしてもらえるとは嬉しいですね。眠れるというのは、よほど安心できるからだと思います。」
とも江
「治療室の雰囲気もあるかなと思うんです。十畳の和室で、床の間や縁側のついている、離れのような部屋を治療室にしていますが、皆さんが、この部屋はほっとすると言ってくださるんですよ。冷暖房や湿度調節、CDの選曲、ちょっとした小物や玄関周りに植える花などに気を配っています。」
里枝子
「すてきですね。更年期の症状に悩んで治療にみえる方もありますか? 」
とも江
「多いですね。幸いなことに私は更年期症状をとても長く経験しましたから、人の訴えを聞いても、ちっとも負担に思わなくて、むしろ一緒に何年かつきあいましょうという気持ちで聞けます。すると相手の人も、ほっとするようですね。女性達は『病気じゃないのに自分で病気にしてる』と人に言われたり、私の所にみえるまでに、色々傷ついているわけです。自分を責めたりして。その話を聴いて、会話する中から、『ああ、やっとわかってくれる人に会った』と言っていただくこともあります。だから、時間が長くかかるというのは、そういうことも関係します。」
里枝子
「ところで、女性限定の治療院に対して、男性達の反応はどうですか?」
とも江
「男性から、応援してくださる声が多いのは意外でした。こんな例もありました。自分の奥様や、お母様が苦しんでいるのを見かねて、電話帳を広げてみたら、『女性のための治療院』と出ていた。これなら女の人がやってるから安心して行かれると思って電話したという男性もいました。そして、電話してきた方が自ら送迎を引き受けてくれるんです。女性が元気で機嫌が良ければ、それは家庭の平和につながりますから、男性のためにも側面からの応援になるんじゃないかしら。」
里枝子
「とも江さんが開いた『女性のための治療院』のことを、ある盲学校の先生にお話したら、素晴らしい取り組みだと思うとおっしゃっていました。盲学校では、女生徒たちも理療の仕事に送り出していて、できるだけ安全に働けるように配慮しているけれど、一抹の心配もある。今後、盲女性が理療の道で、より安全に力を発揮できるために、女性専門の治療院は、ひとつの道を開くものだとおっしゃっていました。」
とも江
「そう受けとめていただけるのは嬉しいです。私は我慢しながら、この仕事に就いてはいけないと思うの。人の体に触れて、苦痛を改善してあげる仕事なのだから、愛情をもってしなければできない仕事です。お医者様には負えない部分を、私達は補っているという考え方を持ってもいいと思います。それから、働く者の安全のことを考えたら、視覚障害の女性の安全というものは、もっときちんと考えておかなければいけないことだと思うの。とても危ういのに、それを無理やり我慢させて、本人にだけ自己責任を負わせていくのは、私、どうしてもおかしいと思います。若い視覚障害の女性達に、女性専門でもできるよと伝えたい気持ちがありました。女性専門の治療院は、もっと絞っていくと、職人芸みたいに、色々な専門が考えられるかもしれません。たとえば、母乳が出るための乳房マッサージは、全盲の女性の方が有利かもしれませんよ。私達が見えないから、相手の人が恥ずかしくないでしょうしね。」
里枝子
「私は今、お話を聴いて、とも江さんの人生の経験が凝縮されて、この仕事になっているというふうに感じました。」
とも江
「私は家に来てくださった皆さんに、少しでも休んでいただきたいの。マッサージを受けて眠れるという、何ともいえない気持ちのよさ、リラックスの場を提供できる。自分も人の役にたち、収入も得られる。しかも、自分が家にいながら出来る仕事、訪れてくださる女性から有効な情報も集まる。こんないいことはないと思います。私の治療室に来られた方が、施療後、明るい声で帰られるとき、ああ、よかった!と、私も笑顔になれます。」

女性のための治療院 オアシス
電話: 0266-28-7751
住所: 長野県岡谷市長地(おさち)源(みなもと)2−7−35

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