ここから本文です。

これまでのゲスト

放送日:2024年3月30日

<ゲスト> スザーン・ロスさん(漆芸作家)

 今月のお客様は、イギリス出身のスザーン・ロスさんです。スザーンさんは、今から34年前イギリスの美術館で出会った輪島塗りに魅かれ、漆を学ぶために輪島市に移住した漆芸作家です。
 スザーンさんは、これから更に新しい作品をと思っているさ中、今年1月1日の能登半島地震で自宅と作業場が土砂崩れの被害に遭い、漆や道具のほとんどを無くしてしまいました。そんなスザーンさんを励まそうと、作品展が2月中旬に、縁あって東御市の「ギャラリー クルミクラブ」で開催されました。今回は、その作品展のおりに、スザーンさんからお聞きしたお話をお届けします。
 スザーンさんから被災体験を伺ったとき、私は返す言葉が見つかりませんでした。でも、何か言わなくてはと思い、とっさに「残念でしたね」と言ってしまいました。するとスザーンさんは「残念じゃ言葉が足りない!」と、叫ぶようにおっしゃいました。私は、はっと胸を突かれて、思わず「ごめんなさい!」とスザーンさんの肩に飛びついて謝りました。たぶんそのやりとりも、そのまま放送されることと思います。
 思い返すと申し訳なくてたまらないのですが… でも、何よりもあのお声が、皆さんにスザーンさんのお気持ちを伝えることになるのだと思います。
 対談の後、私はスザーンさんの幾つかの作品に触らせていただきました。どの作品も、スザーンさんが生まれ育ったヨーロッパの文化と、身につけた輪島塗の技術が融合して、独特の存在感がありました。
 中でも、私が触って心に残ったのは、艶やかな感触のつぼみ椀でした。このお椀は、輪島塗の伝統の赤と黒で塗分けられていて、その赤色は、輪島の夕日の色だそうです。形は開きかけた蕾のように作ってあって、口元に持っていくとお祈りをしているようになります。スザーンさんは、その美しいお椀を私の両手に持たせてくださって、「汁物でもお粥でも、このように両手で持って祈るような気持で召し上がってもらえたらいいと思って」とおっしゃいました。その言葉とお椀の感触が私の心に残って、ひとつの短歌になりました。

土砂の下から救い出されし蕾椀両手で包めば祈りの姿

なお、スザーンさん自身が漆芸作家として再び活躍できるために、そして輪島塗の復活の為に、クラウドファンデングの準備も進んでいます。
J_Suzanne Ross - 漆 Suzanne Ross URUSHI (https://www.suzanneross.art/j_suzanne-ross-1)

(文/広沢里枝子)

前のページへ      次のページへ